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京都地方裁判所 昭和58年(ワ)1055号 判決

原告 西村新作

右訴訟代理人弁護士 岩佐英夫

被告 右京陸運株式会社

右代表者代表取締役 美濃輪実

主文

一、被告は、原告に対し、別紙物件目録一記載の建物のうちの同物件目録二記載の各区画部分を明渡し、且つ、昭和五七年八月一〇日から右明渡し済みに至るまで一か月金一八万七、三〇〇円の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は、被告の負担とする。

三、本判決は、右一項に限り、原告において金五〇〇万円の担保を供するときは、これを仮に執行することができる。

事実

第一、当事者双方の求めた裁判

一、原告

主文一項と同旨の判決、及び仮執行の宣言。

二、被告

1. 原告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二、当事者双方の主張

一、原告の請求の原因

1. 原告は、被告に対し、原告所有の別紙物件目録一記載の建物(以下「本件建物」という)のうちの同物件目録二記載の各区画部分を、次の(一)及び(二)記載の約定等で賃貸し、引渡した。

(一)  別紙物件目録二記載の一号区画部分(以下「本件一号区画」という)について

(1) 賃貸借期間 昭和五五年八月一六日から同五七年八月一五日まで

(2) 賃料 一か月当り金九万円

(3) 共益費 一か月当り金三、〇〇〇円

(4) 右(2)及び(3)については毎月末日限りその翌月分を支払う。

(5) 被告は、原告の承諾なしに右賃貸部分を増改築したり、造作を加えたりしてはならない。

(6) 被告が、次のイないしハのいずれかに該当するときは、原告は、催告なしに直ちに本件賃貸借契約を解除することができる。

イ 賃料の支払いを二回以上滞納したとき。

ロ 前記(5)の約定に違反したとき。

ハ 賃料の支払いをしばしば遅延し、あるいは原告との間の信頼関係を著しく害すると認められたとき。

(7) 特約

イ 契約更新の場合には、賃料を一割値上げするものとする。

ロ 被告は、作業場内以外は一切物を置かないものとする。

(二)  別紙物件目録一記載の二号区画部分(以下「本件二号区画」という)について

(1) 賃貸借期間 昭和五五年五月二〇日から同五七年五月一九日

(2) 賃料 一か月当り金九万一、三〇〇円

(3) 共益費 一か月当り金三、〇〇〇円

(4) 前記(一)の(5)ないし(7)の各約定。

2. その後、本件一号区画及び二号区画についての前記賃貸借契約は、期間満了後被告が右各賃貸部分の使用を継続しているため、いずれも法定更新された。

3. そうすると、右更新後は、前記特約により、その各賃料は一割値上げされた。

4. しかるに、被告は、右更新後も、従前の賃料しか支払わない。

5. そこで、原告は、被告に対し、昭和五七年六月一八日頃被告に到達の同日付内容証明郵便による書面でもって、明確な特約のある本件二号区画についての賃料につき未払いの不足分(一割増額された部分)の支払いを催告したが、被告はこれに応じない。

6. 次に、被告は、本件一号区画及び二号区画につき、次の(一)ないし(四)の各行為をなした。

(一)  被告は、右各区画の建物内の鉄骨にワイヤーを結わえつけ、台板(棚)をぶらさげ、その後漸次、その造作を増加強化し、右台板(棚)の上に多量の何トンもの重い荷物(反物等)を置き続けている。被告の右造作加工、ないし使用状況により、建物の強度に悪影響がおよび、地震等の場合には、右各区画部分のみならず、本件建物全体が崩壊するおそれがある、本件建物の他の部分には他に賃借人があり、これらの賃借人は、被告の右乱暴な使用状況に不安をいだいている。そこで、原告は被告に対し右使用方法を止めるよう度々警告したが、被告は全くこれを無視し続けている。

(二)  被告は、前記各区画の西側(倉庫の裏側)のスレート壁を勝手に取り外して、そこから荷物の出し入れを行ない、フォークリフトの運転を誤って右スレート壁を突いてその壁を浮き上がらせた。

(三)  被告は、前記各区画の入口のシャッター(そのエプロン部分は通常の使用方法であれば、一〇年間使用可能)を、乱暴に扱って、ゆがみを生ぜしめ、フォークリフトで損傷した。なお、原告は、右各区画を被告に賃貸するに際し、シャッターの旧賃借人時代に破損した部分は完全に修復した。

(四)  被告は、本件建物の北側敷地の公道際に、倒れそうな古いトラック(タイヤははずれ、ナンバープレートのない廃車)を置いて、倉庫代りに使用して、通行人を危険に陥れた(そのすぐ北側には公道があり、そこを附近の子供も通行しているので、被告の右行為により危険な状態になっていた)。被告の右行為は、前記1の(一)の(7)のロの特約に違反しているものである。そこで、原告は、被告に対し右廃車を撤去するよう度々警告したが、被告はこれに応じなかった。但し、その後原告代理人(岩佐英夫)が内容証明郵便による書面で被告に警告したところ、被告はようやく右トラックを撤去した。

7. 被告の前記5及び6の各行為は、前記各賃貸借契約の約定に違反しているものであり、また原告との間の信頼関係を著しく害するものである。

8. そこで、原告は、被告に対し、昭和五七年八月七日に内容証明郵便による書面をもって、前記各賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたところ、右書面は同年同月九日被告に到達された。

9. そうすると、右意思表示により、前記各賃貸借契約は、同年八月九日に、解除され、終了した。

10. よって、原告は、被告に対し、右終了による返還請求権に基づき、本件一号区画及び二号区画を明渡し、且つ、右終了日の翌日の昭和五七年八月一〇日から右明渡し済みに至るまで一か月金一八万七、三〇〇円の割合による前記返還債務の履行遅滞による右各区画についての合計賃料相当損害金を支払うことを求める。

二、請求原因に対する被告の認否

1.(一) 請求の原因1のうち、原告が被告に対し原告所有の本件建物のうちの本件一号区画を、請求の原因1の(一)の(2)・(3)及び(7)のロの約定で、右建物のうちの本件二号区画を、請求の原因(二)の(2)・(3)及び右(7)のロの約定で、それぞれ賃貸し、引渡したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(二) 昭和五五年五月二〇日付賃貸借契約書(甲第五号証)には、請求の原因1の(一)の(7)のイの約定(賃料値上げの約定)が記載されているが、被告は右約定に承服できないとして右契約書への署名捺印を拒否したにもかかわらず、立会人が勝手に被告の押印をしたものであるから、右約定は成立していない。

2. 請求の原因2の事実は認める。

3. 請求の原因3は争う。

4. 請求の原因4及び5の各事実は認める。

5.(一) 請求の原因6の(一)のうち、被告が、本件一号区画及び二号区画の建物内の鉄骨にワイヤーを結わえつけ、台板(棚)をぶらさげて、その上に荷物(反物等)を置き続けていることは認めるが、その余の事実は否認する。

(二) 被告の右行為は、本件建物の鉄骨の許容限度内で、床面積を増やしてより多くの荷物を置けるようにするため、昭和五一年の八月頃から一〇月頃までの二か月間にわたってしたものであり、その後、被告は、右工作を強化したり、重い荷物を置いたりしてはおらず、昭和五六年には、本件一号区画につき支柱を三本増やして補強工作をし、本件二号区画につき真中の台板を取り外して建物の負担を軽くする措置を講じた。被告の積載荷重は、現在では一平方メートルあたり約八〇キログラムであるところ、右荷重に充分に耐えられるように右補強工作がなされているものである。そうすると、被告の前記工作は、本件建物の強度に悪影響を及ぼすものではなく、右工作がなされているため地震等により本件建物の倒壊のおそれがあることはない。右工作以後、今日までの約八年間に、何一〇回も人体に感じる程度の地震があった(震度三が九回、震度二が一七回、震度一が四〇回あった)がこれにより、右工作ないし本件建物に何らの異常又は損傷も生じていないのである。

6.(一) 請求の原因6の(二)の事実は否認する。

(二) もっとも、本件一号区画の左の窓の上のスレート壁がはずれて浮いており、ここから、被告が荷物の出し入れをしたことはあるが、それは、被告の従業員がフォークリフトを運転中に誤って棚材を右側からついたため生じたものである。これは、右区画の賃貸借契約が終了して明渡す際に原状に復すればよい問題である。なお、被告が右荷物の出し入れをしなければならなくなった原因を作ったのは、原告である。

すなわち、原告は、昭和五三年一一月三日、被告に対し、本件建物内の三号区画を賃貸する旨約して、被告からその手付金を原告の代理人の訴外株式会社山京(以下「山京」という)に受領させながら、その後、右賃貸借契約書を作成せず、右三号区画は一か月以上も空屋の状態のまま放置した。被告は、本件一号区画及び二号区画とも荷物が満杯で、その日に入って来た荷物が入り切らなかった。そこで、困惑した被告は、山京に対し電話でその事情を訴へた。山京は、手付金ももらっているので、近いうちに契約書を持参するから、右三号区画を使用することを了解した。本件一、二号区画を実際に被告が、使い始めてから、一〇日から二週間ほど遅れて、山京は、右契約書を持参した。それにもかかわらず、原告は、「わしに何も相談せんと勝手に荷物を入れやがって、勝手に荷物を入れるやつなんかに、貸せるか」と狂人のごとく大声でわめき、右三号区画に入れた荷物を出せ、早よ出せと要求した。原告の右言につき理解に苦しむ被告は、山京にすぐ来るよう連絡して、呼び寄せたが、原告は、山京に対してこれは「わしの財産やぞ、わしの知らん間に何してやがんねん」とどなっていた。結局、わけの分らないことを口走る原告に嫌気した被告は、一方的に理由のないまま引き下がった。荷主の財産に何をするかわからんほど原告は狂っていたからである。支離滅裂とはこのようなときに使う言葉である。前記約束どおり、被告が右三号区画を使用することができた場合は、本件一号区画の荷物を右三号区画に部分的に移すことができ、その場合は前記壁を外さずに出し入れができたのである。しかるに、被告は右三号区画を使用することができないため、前記壁をはずしてここから荷物の出し入れをせざるを得なかったのである。

7.(一) 請求の原因6の(三)の事実は否認する。

(二) もっとも、原告主張のシャッターについては、被告がいためた部分はある。それは、被告は、フォークリフトを使用しているので、その重さで、シャッターの真中の支柱受けが早くから何回もいたんだのである。故意に乱暴に扱ったものでない。しかし、本件建物を以前に使用していた者らがいためた部分がはるかに大きく、そもそも本件建物は建築後すでに一〇年以上経ち、シャッターの耐用年数の三年はすでに経過し、そのガイドレールとすれる部分がすりへったり、折れたり、戸袋内の巻上げに作用するバネもその弾力を失い、スムーズに開閉できる状態にはないところ、これを修理をせず放置している原告の態度こそ責められるべきである。

8.(一) 請求の原因6の(四)の事実は否認する。

(二) もっとも、被告は、原告が被告の駐車場に指定した場所(公道から八〇センチメートルも高い場所の軒下)にトラックを置いたことはあるが、用心が悪いため、右車両を倉庫代りとして使用することができる筈はなく、通行人に対しても、通路妨害にはならず、何ら危険ではなかった。しかも、被告は、昭和五七年一〇月二九日に右車両を撤去した。

9. 請求の原因7は争う。

10. 請求の原因8の事実は認める。

11. 請求の原因9は争う。

12. 請求の原因10は争う。

二、被告の抗弁

1. 仮に、請求の原因1の(一)の(7)のイの特約がなされたことが認められるとしても、右特約は、将来におけるあらかじめの賃料値上げの合意であって借家法七条に違反し、無効である。

2. 請求の原因6の(一)の被告の造作加工ないし使用状況については、原告は、これを次の(一)ないし(三)のとおり黙示的に承認した。すなわち

(一)  右造作期間中、原告は、被告会社代表者の美濃輪実の野良着姿を四・五回目撃し、その際、右代表者が原告に「こういうものを造っている」と述べて、右造作加工をしていることを説明したところ、その後、右造作加工が完成するにしたがい、原告は、右代表者に対し、「上手に造ってあるなあ」と発言して、右造作加工を黙認した言動を行なった。

(二)  右造作加工完成後の昭和五二年末に本件二号区画の賃借人の不始末による水ぬれのためアルミの金属の粉末からガスが発生し、原告の通報により消防署員五、六人、警察官四、五人が来たが、その際、原告も来て、賃借人不在により本件二号区画に出入りが出来なかったので、原告は、ガスもれ確認のため本件一号区画の造作の上に登った。その折、原告は、完成した造作を確認しながら何ら異議を唱えなかった。

(三)  昭和五六年九月頃本件一、二号区画の賃貸借契約の立会人である山京の向島営業所長と名乗る者から、被告に対し、家主(原告)の代理として、本件一号区画については、台板を支えている四本の支柱をもう二、三本増すように、本件二号区画については、真中に吊ってある台板を取り除くように指示があったので、被告は、右指示どおり実行した。そして、その後一週間程して、山京の従業員がこれを確認するために来て、以後一切家主(原告)側から音沙汰がなく、異議の申し入れはない。

三、抗弁に対する原告の認否

1.(一) 抗弁1は争う。

(二) 借家法が一方的強行規定として規制している対象に賃料は含まれておらず、著しい不合理でもないかぎり(本件は右不合理にあたらない)、あらかじめの賃料の値上げの合意は有効である。

2.(一) 抗弁2の事実は否認する。

(二) もっとも、山京の社員が本件賃貸建物の現場を見に行ったことはあるが、その時は、まだ簡単な造作であり、置いている荷物も少なかったので、補強を指導した。しかるに、被告は、原告側の善意を裏切って、その後どんどん造作を強化し、重い鉄骨、棚の上にさらに何トンもの荷物を置くようになり、原告の警告も全く無視し続けたのである。

また、被告主張のガスが発生した事実があったが、原告は、消防署員等が現地に到着して騒がしくなってからはじめて知り、当時の本件二号区画の責任者を電話連絡で呼び出し、同人がシャッターを開き内部を調査したものである。その時、原告は、倉庫(本件一号区画等)の内には入っていない。被告は、原告が本件一号区画の造作の上に登ったなどと主張しているが、そのような事実はないし、また本件一号区画と二号区画の間には仕切りがあって、本件二号区画内は見えず、本件一号区画の造作の上に登っても無意味である。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、〈証拠〉によれば、原告は、被告に対し、原告所有の本件建物のうちの本件一号区画を、昭和五一年八月一五日に、同年八月一五日から同五三年八月一四日までの間賃料一か月当り金七万五、〇〇〇円、共益費一か月当り金二、〇〇〇円の約定で賃貸して引渡し(それ以来、被告は右区画の使用を続けた)、同五三年八月一九日に、同年八月一五日から同五五年八月一四日までの間、賃料一か月当り金八万二、五〇〇円、共益費一か月当り金二、〇〇〇円の約定で賃貸し、同五五年九月八日に、同五五年八月一六日から同五七年八月一五日までの間、賃料一か月当り金九万円、共益費一か月当り金三、〇〇〇円、その他は請求の原因1の(一)の(4)、(5)、(6)のイ、ロ、ハ、(7)のロの記載と同じ(但し、請求の原因1の(一)の(6)のイの「賃料の支払いを二回以上滞納したとき」とあるを、「賃料の支払いを二回分以上滞納したとき」とあらためる)の約定で賃貸し、更に、原告所有の本件建物のうちの本件二号区画を、昭和五三年五月二〇日に、同年五月二〇日から同五五年五月一九日までの間、賃料一か月当り金八万三、〇〇〇円、共益費一か月当り金三、〇〇〇円の約定で賃貸して引渡し(それ以来被告は右区画の使用を続けた)、同五五年五月二〇日に、同年五月二〇日から同五七年五月一九日までの間、賃料一か月当り金九万一、三〇〇円、共益費一か月当り金三、〇〇〇円、その他は、請求の原因1の(一)の(4)、(5)、(6)のイ、ロ、ハ、(7)のイ、ロの記載と同じ(但し、請求の原因1の(一)の(6)のイの「賃料の支払いを二回以上滞納したとき」とあるを「賃料の支払いを二回分以上滞納したとき」とあらためる)約定で賃貸したことが認められる。被告代表者尋問の結果中右認定に反する部分は右証拠と対比して措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

二、原告は、本件一号区画の昭和五五年八月一六日から同五七年八月一五日までの間の賃貸についても請求の原因1の(一)の(7)のイ記載の約定がなされた旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

三、被告は、抗弁1において、請求の原因1の(一)の(7)のイの特約(契約更新の場合には、賃料を一割値上げする旨の特約)は借家法七条に違反し無効である旨主張する。しかし、借家法七条は、賃貸人又は賃借人の一方的な意思表示による賃料の増・減請求につき規制したものであるところ、同法六条は、右七条の規定に反する特約を無効とする旨規定していないので、賃貸人と賃借人が将来の賃料の値上げをあらかじめ合意する約定は、借家法七条の規定の趣旨を逸脱して、その約定の内容が著しく不合理である等の特段の事情がない限り有効であるものといわなければならない。しかして、前記認定の賃料値上げの特約については、その値上げの程度、時期等を考慮すると、右特段の事情があることは認め難いので、右特約が無効であると判断することはできないものである。そうすると、被告の右主張は採用しない。

四、しかして、右一に認定の本件一号区画及び二号区画についての各最終賃貸借契約は、それに約定の各期間満了後被告が右各賃貸部分の使用を継続しているため、いずれも法定更新されたことは当事者間に争いがない。

五、そうすると、右法定更新後は、本件二号区画についての賃料は、前記認定の賃料値上げの特約により一か月当り金一〇万四三〇円(従前の賃料金九万一、三〇〇円の一割増し)に増額されたものといわなければならない。しかるに、右更新後も、被告が従前の賃料しか支払わないので請求の原因5のとおり原告が被告に対し本件二号区画についての未払いの賃料不足分(右一割増額された部分)の支払いを催告したが、被告がこれに応じないことは、当事者間に争いがない。

六、1. 被告が本件一号区画及び二号区画の建物内の鉄骨にワイヤーを結わえつけ、台板(棚)をぶらさげて、その上に荷物(反物等)を置き続けていることは、当事者間に争いがない。

2. 〈証拠〉を総合すれば、原告は、昭和五五年頃、本件建物の雨漏りやシャッターの点検に行った際、右1の造作がなされていることに気付き、直ちに被告の代表者に、本件建物は右造作ができる構造になっておらず、このやり方は無理だから止めるよう要求したが、右代表者は返事をせず、右要求を聞き入れない態度を示したこと、昭和五六年九月頃原告は、本件賃貸借契約の立会人の山京に対し右造作加工が危険であるので点検してほしい旨要請したので、山京の社員が早速本件一号区画及び二号区画に出向き、見分したところ、危険な状態であるが、支柱を増やせば補強できると思って、被告の代表者に支柱を増やすよう指示して帰ったこと(その後被告は右支柱を施したが原告ないし山京の社員は、後日これを確認に来ていない)右各見分当時は、前記造作加工につきH型鋼はまだつけておらず、台板(棚)の上に積載してある荷物の量も多くなかったこと、ところが、その後右積載荷物の量も多くなる様子が見え危険に思えたので、原告は、本件建物の建築を施工した訴外田中工務店に右事情を具申したところ、危険であるから何故もっと早く制止しないかと忠告されたこと、そこで、原告は、昭和五七年六月一八日頃、被告に対し、内容証明郵便による書面で、右造作加工を止めるよう催告し、同年七月頃原告代理人岩佐英夫(弁護士)及び山京の社員が本件一号区画及び二号区画に出向き、前記造作加工を見分したところ、前回見分時よりも強化(H鋼が付加)され、台板(棚)の上に積載されている荷物の最も多量(前回の見分時より倍増)になっていたこと、その後、原告は、被告を相手どって、調停を申し立てて右造作加工の撤去等を求めたが、被告がこれに応じないため、右調停は不成立に終ったこと、本件建物は、風速六〇メートル及び関東大震災程度(マグニチュード七・九)の地震に耐えられるよう設計、建築施工されているが、被告がなした前記造作加工ないし荷物の積載は、右耐用力に悪影響を及ぼして危険であり(右天災時に前記造作加工部材がはずれたり、落下したり、前記造作加工のため本件建物が損傷、倒壊等する)、本件建物を健全に維持管理するためには、右造作加工物を速やかに撤去する必要があること(被告が施している補強のための前記支柱は、何ら補強の役目を果していない)、本件建物内には他にも賃借人があり、これらの賃借人は、原告に対し右造作加工により本件建物が危険であるので、その善処方を要望していることが認められる。被告代表者尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲証拠と対比して措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

3. 被告は、抗弁2において、原告は、右造作加工を黙示的に承認した旨主張する。

成程、原告が右造作加工物を見分し、原告から見分の依頼をされた山京が被告に補強のための支柱を施すよう指示したことは前記2において認定のとおりである。なお、原告本人尋問の結果によれば、昭和五二年本件二号区画の前賃借人(訴外松島)の不始末(水ぬれのスクラップ等からガスが発生)があって消防車が来た際、原告が右区画に入ったことが認められるが、被告主張のとおり、その際、原告が、本件一号区画の被告が施した前記造作の上に登って、これを確認したことを認めるに足りる証拠はない。しかし、右認定の原告の見分、山京の指示をもって被告主張の原告の黙示的承認を認定することは困難である。すなわち、前記2において認定のとおり、原告は、被告に対し、何回も前記造作加工の撤去ないし制止の要求を続けているところ、被告がこれに全く耳をかさないので、原告から苦情を聞いた山京が支柱を施せば補強できると考えて、せめてこれだけでもして欲しいと要求したに(しかも、その当時における前記造作加工及び荷物の積載はその後の状況よりも軽度であった)すぎない(前記認定のその前後の状況によれば、原告は山京の右指示に反対でなく、容認していたことが推認できる)ので、原告の右言動はけっして被告の前記造作加工を容認した態度とは言えず、原告の右要求に強く拒否の態度を示している被告に対し少しでも受け入れやすい改善策を原告は山京を介して被告に要望したにすぎないものであるから、これをもって、原告が前記造作加工を黙示的に承認したと認めることは困難である。被告代表者尋問の結果中、被告主張の原告の右黙示的承認の事実に関するものを含む前記2の認定に反する部分が措信できないことは前記2において判示のとおりであり、他に被告主張の原告の右黙示的承認の事実を認めるに足りる証拠はない。

七、1. 〈証拠〉を総合すれば、被告は、本件一号区画及び二号区画の前記各賃借中、その内部で、荷物の出し入れ等のためフォークリフトを使用しているところ、右フォークリフトの運転操作が乱暴で、これにより、出入口のシャッターに歪みの損傷を与え、そのためその戸袋も歪む結果になったこと、右賃借中に本件二号区画の内部で作業していた被告のフォークリフトの運転操作が乱暴で、これにより、スレート壁が一部はずれかかって浮き、ここから、被告は荷物を出したこと、右ケ所は本来荷物を出し入れをする所ではなく、右行為については、原告の承諾を得ていないところ、被告は、賃貸借契約書に右行為をしてはならない旨記載されていないので、右行為をしてもよいと考え、全く反省の気持を持っていないこと、原告は、被告に対し、昭和五七年六月一八日頃、内容証明郵便による書面でもって、本件一号区画及び二号区画の乱暴な使用方法をあらためるよう申し入れたが、その後、被告は、右申し入れに耳をかさず、依然として右乱暴な使用方法を続けていることが認められ、右認定に反する証拠はない。

2. 被告は、事実欄の第二の二の6の(二)、7の(二)において、被告の右行為については、原告にも責められるべき点がある旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

八、以上判示したところによれば、被告は、本件二号区画につきその賃貸借契約の更新以降(昭和五七年五月二〇日以降)支払うべき一割増額分の賃料部分(一か月当り金九、一三〇円)を支払わず、前記五に認定の行為をなして、本件一号区画及び二号区画の賃貸借契約における約定(請求の原因1の(一)の(5)の約定)に違反し〔なお、右行為は、被告が賃借人としてなすべき賃借物件(本件一号区画及び二号区画)を善良なる管理者の注意をもって保管すべき義務(右義務は、賃貸借契約の内容として当然含まれ、又は、民法四〇〇条により生ずるものである)を履行しておらず、これにも違反しているものというべきである〕、更に、前記六において認定の行為をなして、賃借人としてなすべき右善良なる管理者の注意をもって保管すべき義務に違反しているものであるところ、前記四ないし六において認定のとおり、原告が被告に対し、右未払い賃料部分の支払いを催告し、被告の右違反行為を止めるよう催告しても、被告はこれに応じないものである。

九、そこで、原告が被告に対し、昭和五七年八月七日に内容証明郵便による書面をもって、本件一号区画及び二号区画についての前記賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたところ、右書面が同年同月九日被告に到達したことは当事者間に争いがない。右解除は前記七において判示のとおり理由があるから、右解除の意思表示により、右賃貸借契約は同年八月九日に解除され、終了したものといわなければならない。

一〇、してみれば、被告は、原告に対し、右終了にともない、本件一号区画及び二号区画を明渡し、且つ、右終了日の翌日の昭和五七年八月一〇日から右明渡し済みに至るまで原告主張の一か月金一八万七、三〇〇円の割合による右各区画の前記認定の賃料(その合計額)相当の損害金を支払う義務があるものといわなければならない。

一一、よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山崎末記)

〈以下省略〉

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